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解決支援者の現場日記

< ひきこもり・不登校~心を蝕む日常とは?⑤  |  一覧へ戻る  |  ひきこもり・不登校~独自性を無視された子どもたち② >

ひきこもり・不登校~独自性を無視された子どもたち①


私が、今のような支援活動をすることになる影響を受けたものは、『人間この未知なるもの』

という本の中の一節です。

著者はアレキシス・カレル。ノーベル生理学・医学賞を受賞している科学者です。

初版は1935年ですが、20代後半に目にしました。次のような内容です。




「青年は、各々その適性自分独自の精神的、生理的活動に従って、自分の属する社会的

グループに入るべきである。しかし自分自身を知らないので、そうすることができない。

両親も教育者もその青年について、当人と同じように無知である。

子供たち個々の性格をどうやって探り出すべきか分からない。そこで、子供たちを規格化しようと

努力する。

現代企業の方法は、働く人の個性にはなんの考慮も払わない。すべての人間はそれぞれ異なっている

という事実を無視している。大部分の人は自分の適性に気づいていない。しかし、誰でもが何でも

できるわけではない。自分の性格によって、各個人には適応しやすいタイプの仕事や生き方がある。

成功と幸福は、自分が環境に合っているかどうかにかかっている。鍵が錠にぴったり合うように、

人間も自分の社会的グループ適合すべきである。両親も教師も、先ず第一に、それぞれの子供の

生得の素質潜在的可能性を知るように努力すべきである」





読み返しても、決して古臭い時代遅れの内容ではなく、令和の現代にも充分深い示唆与えるものです。

実際、著者もその序文に「本書は古くなるつれてますます時宜を得たものになるという逆説的運命を

持っている」
と述べています。言わば「未来はこうなるであろう」という予言です。

その予言はどうやら的中してしまっているようです。

一人一人の個性、独自性を無視した子育て、教育が社会全体に適応障害を招いてしまっているようです。

(続く)










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ひきこもり・不登校~独自性を無視された子どもたち②


前回から引き続き『人間この未知なるもの』からの一節をご紹介しましょう。

「平等」が優れた資質の芽をつんでいる の項目から




民主主義の教義は、人間の肉体と精神のを考慮に入れていない。

それは個人という具体的事実にあてはまらない。
(略)

各個人間に見られる相違は、明らかに尊重されなければならない。(略)

個性が崩壊したのは、平等という作り話を信じ、符号を好み、具体的な事実を蔑視したことに

大きな原因がある。

劣等なタイプを引き上げることは不可能であるから、人間に民主的平等をもたらすための

唯一の方法は、全員を低いレベルに揃えることになる。こうして、個性が消えてしまった。
(略)

現在、人間が弱体化したのは、個性を認めないことと、人間がいかにできているかについて無知

であることの二つによるのである。





私は当時、登校拒否児と言われているころ、ほぼ病人扱いされていることにとても違和感を

感じていました。

誰(大人)だって、人に会いたくなくなることだってあるだろうに、出社拒否や帰宅恐怖症だってある。

つまり、病気でなくても何か心に抱えるものがあって、いつもと違って気が進まないことなんて

普通にあることです。

正常な悲しみ正常な不安というものがあるでしょう。

悩みをすぐに病理と捉える風潮が、とても嫌でした。

この傾向は、未だにありますね。




私の支援方針は、「活かされてこそ癒やされる」です。

つまり、各人の個性が活かされれば、痛みを抱えたとしても、自然癒やされていくのです。

私が出会ってきた若者たちの多くが、個性を否定され育ってきていました。

「変わりなさい!」と言われ続けたり、「人と足並みを揃えておきなさい」とか、「あなた変だよ!」

とか。大きなお世話です(笑)。

「変わりなさい」は、親(大人)の都合に合わせて変わりなさいですからね。

勝手です。

また近年は、ちょっと変わった行動をしているだけで、「発達障がいじゃ?」なんて決めつけをする

教師もおられるようです。

「あ~あ~、なんてこったぁ~」という感じですね。




人は皆、天分という独自性をもって生まれてきている価値ある存在なのです。

それなのに、保育園の演劇では桃太郎が沢山いたり、徒競走でも順位をつけなかったりと、

一体何をしたいのでしょう?




個性(自分ならでは)をもつ自分は、二人といないのです。それだけに希少価値があるのです。

自分の持ち味(強味)を活かせる場があれば、人は、人を遠ざけたりしません。

互いが個性を尊重しあえば、いじめやハラスメントも無くなることでしょう。




20代のころに読んだこの『人間この未知なるもの』が、私の支援活動の根っこになっています。

人は個性を自認し他から認められたら、元気でいられるものなのです。










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ひきこもり・不登校~心を蝕む日常とは?⑤


持続される日常のストレスは、トラウマ化され、ストレスや欲求不満耐性の脆弱さや、自制能力

人間関係構成能力の欠如につながっていきます。

これらが、不登校やひきこもりという現象を招いてしまっているのです。




持続される日常のストレスは、慢性的なストレスであり、次のような状況でより心にダメージを

与えます。

ひとつは、予測ができない場合です。

親の感情の起伏が激しく、急に不機嫌になり怒りだす。

子どもは理由も分からず叱責され恐怖すらおぼえます。

また、逆にふさぎこむ。特に母親の落ち込む悲しげな姿は、子どもに不安を与えます。




そして、コントロールできないストレス。

親の態度や行動は、コントロールすることができません。

それが予測を困難にもしますし、事態が起こってしまえば自分でどうすることもできず、無力感

抱きます。

これは何事をも否定的悲観的にしか捉えられなくなります。




ストレスは、ガス抜きが出来ていれば溜めずに発散出来ていいのですが、「泣くな」「笑うな」

「はしゃぐな」「騒ぐな」など、感情の表出や楽しみが許されませんと、溜めこむばかりです。

やがて爆発するか、くすぶると怒りが恨みに変容していき、人格を歪めていきます。




「日常的混乱」(=日常のいらだち)について述べてきましたが、これらは、日常から安心・安全感

を奪い、社会的なつながりをも絶ってしまう「ひきこもり現象」の誘因となっているのです。









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ひきこもり・不登校~心を蝕む日常とは?④


「日常的混乱」(=日常のいらだち)を続けます。

他の子どもと比較すること。

兄弟間での比較や、他人(友人や身内)との比較ですね。

「妹は○○なのに、お兄ちゃんなんだからしっかりしなさい」

「○○くんは、○○大学に行ったそうよ」とか、常に誰かと比べ貶めるパターンです。




励ましているつもりかも知れませんが、いらぬ世話です。

この比較された話は、当事者たちからよく出てきます。

それだけ、とても嫌なことなのです。

こういう親御さんほど、他の子どもたちの元気な姿を見るに堪えなく、周囲との関りをもたなく

なっていきます。

わが子の現状と比べて悲嘆してしまっているのです。

これも長期化のひとつの要因です。




子どもへの関心・関与が少なすぎる、これもダメージは小さくありません。

以前、あるひきこもり者に「父親から説教されたことある?」と尋ねた時に、

「いいえ何も言われていません」と答えたので、「良かったね。責められなくて」と伝えたところ、

「親父にとって、俺が退学しようが、ひきこもろうが、どうでもいいんですよ。自分には関係ない

ことなんでしょう」と、返されました。

愛してもらえているとは思えませんよね。

とても寂しげで悔しさのにじみでた表情が、印象深く記憶に残っています。




この反対は、過干渉ですね。

過干渉は、干渉を愛情と勘違いしています。

それは愛情ではなく、単なる執着です。

また、親自身の不安の解消のために行っています。

子どもをコントロールしようとすると、そこに遠慮も慎みも無くなり、子どもの世界に侵入しようと

してしまいます。

わが子への敬意を失うと、わが子の自尊心を育てることができません。




これまで挙げたような「日常的混乱」がありますと、それらは「持続的なストレス」となり、

トラウマ化されるのです。

親が親として機能しないと、子どもはありのままの自分を見失い、「ここに居ていい」という自覚を

もてず、身を潜める生き方しかできなくなるのです。

(続く)










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ひきこもり・不登校~心を蝕む日常とは?③


「持続的なストレス」について具体的に述べてみましょう。

主に「日常的混乱」(=日常のいらだち)の中にあります。

日常と言えば、当然家庭の中でということが多いわけです。




一番大きなダメージになるのは、やはり家族間の不和ですね。

特に両親間です。両親の小競り合いをしょっちゅう見せつけられるのは、子どもにとっては不安な

ものです。また、祖父母と親との間柄や、親族との関係なども、同じです。

職場でもそうですが、要は人間関係に不具合があれば、それはかなりのストレスとなるわけですが、

それを日常的に見せつけられていれば、子どもの心には傷を与えます。

他人ではなく、肉親ですからね。




次にあるのは、親の資質に関することです。

感情の起伏が激しく情緒不安定な場合、例えば急に怒りだす、急に落ち込むなど感情の波が大きい

と、子どもは混乱するばかりでなく不安になります。

また、子どもの発達課題に適切な対処ができない親は、不安定なわが子に寄りそったり、受けとめ

たり、導いたりができず、子どもの成長の機会を逸してしまいかねません。

子どもっぽい親や、愚痴っぽい親も、頼れず不安にさせます。

特に愚痴は煩わしくもあり、悲観的な人生観を与え、生きる意欲をそぎます。

まだまだ続きます。

(続く)









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ひきこもり・不登校~心を蝕む日常とは?②


不登校、ひきこもり、いずれも内(自己の世界観)に閉じこもってしまう現象ですが、

これは簡単に言えば「穴があったら入りたい」という状態です。

つまり、恥ずかしいんです。表に出ることが。




恥ずかしいと言っても、単に恥ずかしがり屋さんとか、引っ込み思案といったレベルでは

もちろんありません。

私たちが日常の中で、恥ずかしい思いをすることはよくあることです。

私も自宅前の階段で転倒し、顔面の擦り傷で絆創膏だらけで病院に行った時、とても恥ずかしい

思いをしたことがあります(笑)。

子どものころから考えたら、数え切れないほどあります。

しかし、不登校やひきこもりの抱える恥ずかしさは、こういった次元のものではありません。




「羞恥心」という言葉がありますね。

これらはとった行為・行動を恥じることです。先ほど私の例であげたようなことです。

転んでひっくり返る。妻の目の前でこけましたので、大笑いもされました。

ひきこもり者たちの抱えている恥ずかしさは、「恥辱感」といったものです。

これは、しでかしたことを恥じるのではなく、自身の存在自体を恥じているのです。

行為・行動は、再びしでかさないようにしていけばいいだけです。

しかし、存在を恥じている場合は、当然その存在を隠さざるを得なくなるのです。




では、なぜ存在を恥じるようになってしまったのでしょうか?

不登校だから、ひきこもりだからではありません。

それは結果です。

その前から自分が恥ずかしかったので、そうなったのです。

もちろん、不登校、ひきこもりになったことが、さらに恥辱感を強めてしまったことは否めません。

恥辱感につながった「持続的なストレス」について述べてみましょう。

(続く)









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